新任研究所長あいさつ 信州の農山村と農畜産業を支え続けるために

今年2月20日の日本農業新聞一面に、「移住希望 長野1位」の見出し記事がありました。ふるさと回帰支援センターが、訪れた移住相談者に行ったアンケートによれば、長野県は昨年に続き第1位です。

その根強い人気に影響されたわけではありませんが、当機構設立2年目の1983(昭和58)年4月から1989(平成元)年3月までの6年間、研究員として在籍していた私も30年ぶりに長野県農協地域開発機構に回帰することとなりました。

長野県の農協界は、面接で初めて信州を訪れ、農業協同組合のこともほとんど知らず、社会経験も無い、無い無い尽くしの新参者を、厳しくも懐深い寛容の精神で育ててくれました。改めて御礼申し上げます。

その後、石川県農業短期大学(現石川県立大学)で8年間、岡山大学で22年間という平成の30年間、教育と研究に携わってきました。特に、岡山大学で指導した西井賢悟氏(現一般社団法人日本協同組合連携機構主任研究員)と坂知樹氏(当開発機構研究員)が当機構に採用され、縁の深さを感じました。

30年間、農業協同組合論を中心に教育と研究に携わってきたものの、時の流れは早くて激しく、長野県の農業についてもJAグループについても新参者同様と、自認しています。

信濃毎日新聞(3月24日付)の社説は、「国の論理で地方の暮らしを守れるだろうか」と本質的な問いかけをしています。「平成の大合併で旧町村部の衰退が加速したのに、『選択と集中』を繰り返す。人口の少ない集落をコストとしか見ない発想は、消費地の都市を支える農山漁村の生産機能や、観光資源を保全し、提供する役割をないがしろにするものだ」との、厳しい指摘には、まったく同感です。

長野県JAグループに課せられた使命は、信州の農山村や農畜産業をこれからも支え続けていくことです。そのために必要な調査・研究活動を行う自前の調査研究機関として、長野県農協地域開発機構が少しでも貢献できるよう努力いたします。

(研究所長 小松泰信)平成31年4月1日就任


コラム・春 新3か年計画のスタートにあたって

~農業ジェロントロジー~

JA長野県グループの新たな3か年計画がスタートする。開発機構も会員の期待・時代の要請に応えるべく引き続き実践的調査研究事業と人材サービス事業に取り組むますが、特に農業労働力確保は本県農業の最重要課題であり、JA長野県労働力支援センターに参画し役割発揮に努めてまいります。

このことは焦眉の急、喫緊の課題であるが、地方のJAグループの調査研究機関として、社会的視野と環境変化をとらえその指針となるべき考え方を提起していく必要性も強く感じています。それがジェロントロジー(人間の老化現象を生物学、医学、社会科学、心理学など多面的、総合的に研究する学問=知恵蔵解説)です。 この考え方に立って「食と農」「地域」「協同組合」を見ると個人の生き方、今後の社会のあり方、あるべき姿が見えてきます。寺島実郎氏(日本総研会長)の著書『ジェロントロジー宣言』の中で、身体の衰えのみを捉えた「高齢化によって劣化する人間」との見方を共有せず、むしろ、知恵の生涯発達として捉え、個人の長寿化と社会の高齢化について、それに応じた人生の生き方・考え方、人生観、価値観、そして社会システムの再構築が必要と訴えています。

異次元の高齢化を迎える日本で「幸せな高齢化社会」を迎えるには、医療・介護などの健康問題や年金など社会コスト問題への対応、そして技術革新を的確に受け入れた上で、高齢者の参加プラットフォーム形成まで個人、人間社会総体を変革していく必要があります。60歳以降を第二の人生、余生と捉えるのではなく、60歳前の「カセギ」から60歳以降の「ツトメ」いわば社会のために役割がある生き方こそ必要です。

JAは、「食と農」「地域」「協同組合」を通じて、異次元の高齢社会の中ですべての人が活躍するプラットフォームを提供することが大きな役割となる時代が来たのではないでしょうか。このことをJAの新機軸として、「幸せな高齢化社会」実現していくことがJAの大きな使命なのではないかと思います。

(常務理事 浦野邦衛)


コラム・冬 新年“己亥”の年『新たなステージに向けた準備期間』

平成31年“己亥(つちのとい)”の年を迎えました。5月以降新元号の年、平成の終わりの年です。

振り返れば平成のはじめは経済的にはバブル経済の終焉と以降の失われた20年と称されるマイナス成長・低成長・デフレ経済、リーマンショック、そして高齢・人口減少社会、格差社会の顕在化、そしてグローバル化・規制緩和など新自由主義の台頭、 そして近年、トランプ政権誕生、英国EU離脱、仏国「黄色いベスト」運動、EU等右派勢力拡大など、その弊害による生活破壊への反発の動きが新しい潮流として生まれつつあります。 グローバリゼーション・国家主権・民主主義このトリレンマをどう調整し、軸足をどこに置くのか。明らかに行き過ぎたグローバル経済は副作用が大きく限界にきています。 国連が持続可能な開発目標SDGs<誰も置き去りにしない>国際社会共通の目標を決定しました。更に国連の「小農宣言」、来年からの「国連家族農業の10年」など国際社会はその是正に動いています。 日本はこの小農宣言採択を棄権しました。日本政府・官邸農政、何をか言わんやです。怒りすら覚えます。

“己亥(つちのとい)”は守りの年ともいわれますが、植物の生命の力が種子の中に閉じ込められている状態と言われています。 平成31年 西暦2019年は、JA長野県長期ビジョン新3か年計画のスタート年、政府の「農協改革集中推進期間」終了5月、新中央会組織変更9月などを迎えますが、種子に宿した協同組合思想DNAを引き継ぎ、新たなステージに対応する組織・事業を育て、繁栄していく起点の年です。

開発機構の使命たる農業を基盤とした豊かな地域社会に貢献するため、農業労働力、AI・IoTなどスマート農業への対応など新たなステージに向けて取り組んでまいりますので、本年も宜しくお願いいたします。

(常務理事 浦野邦衛)


コラム・秋 田園回帰への覚醒 ~信州エクスターンシップ事業の成果~

本年3回目となる信州エクスターンシップ(地域滞在型インターンシップ)が、8月下旬に長野地域で首都圏大学8大学、県内大学2大学合計37名の1~3年次学生が参加し、16企業・行政・団体を訪問し、職場見学・体験、社員等インタビューに取り組んだ。首都圏集中が進む中で、地方で暮らし・働くという選択肢拡大ためのキャリア教育を狙いとしている。

開発機構は、山間地域である小川村に協力をいただき、①小川村の概要と交流・移住・定住施策 ②㈱小川の庄(地域活性化・高齢者雇用)でのおやき作り・そば打ち体験 ③地域おこし協力隊員・村職員へのインタビューというプログラムに8名の学生が参加した。

大学を卒業し、首都圏又は近隣の企業に就職し定年を迎えるとのキャリアイメージしか描けない学生達は、特に地域おこし協力隊員へのインタビューで、その生き方・働き方、人生の選択肢に関してインパクトがあったようだ。また、小川村は「暮らす村・定年のない村」との地域ブランディングに取り組んでおり、村内での起業(コミニティービジネス)支援や子育て・居住・古民家再生支援など暮らしにかかわる個人支援が充実している。この施策の手厚さにも驚いたようだ。最終日に8チームに別れ成果発表会が行われ、小川村プログラムに参加した学生は7チームに混じったが、各チームの中に小川村で体験した要素が入っており、あるチームは農村で暮らし・働くことについて真正面に受け止め提案する内容まであった。学生のキャリア選択の拡大に確実に結び付いたようだ。

農村で暮らし・働くこと、その異文化体験こそ田園回帰への覚醒に繋がる。10月に行われる村祭りでは、引灯篭の引手として学生が参加する。関係人口の始まりである。

(常務理事 浦野邦衛)


コラム・夏 協同の心を継ぎ紡ぐ「組合製糸」と「集落営農」

協同組合教育のあり方に関する研究会を全中・家の光、各地の実践者が上伊那の地に集い「大転換期の協同組合教育をどうすすめるか」をテーマに意見交換をした(内容は後日開発機構HPに掲載予定)。JA上伊那 牛山喜文前専務理事(第60回農協人文化賞受賞)より実践報告いただいた。

牛山さんから「上伊那地域は、明治時代養蚕が盛んだったが、製糸会社の買い叩き・不当取引に悩まされていた農家が、産業組合法以前に自らを守る手段としてお金を出し合い製糸を開始。やがて、産組法のもとで組合製糸龍水社が誕生し、農家所得の向上に寄与した。養蚕・組合製糸は国際貿易の中で劣後し衰退したが、今日の協同の心を実践するのは上伊那全地域をカバーする48(うち法人44)集落営農だ。上伊那は共に助け合い自分たちの地域・農業は自ら守る協同の心が息づいている。」との報告がされた。

中世以降、団体的自治は日本社会の基層をなすものと言われるが、団体的自治の文化(協同の心)が、村社会・農業の営みを支えてきた。その実践が上伊那地域の組合製糸龍水社であり、今日の集落営農で、協同の心を継ぎ紡ぐものだ。協同組合理論を学ぶことはもちろん重要であるが、実践を通じた協同組合教育こそ日本社会の基層をなす協同の心を覚醒させることに繋がるとの確信を得た研究会であった。

(常務理事 浦野邦衛)


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