コラム・秋 協同のとりで ~協同組合教育が本当に必要なのは誰~

「『組合員・利用者からの信頼を得て、納得した事業利用がなされるために必要なことは、日常的なフェース・ツー・フェースの関係を保ち続けること』ということは、その通りだと思いました。連合会職員としては、JA対応についても同じだと思いましたが、その中で、連合会職員として生産者対応はどこまでした方がよいのか、生産者対応を行うにあたってJAとの機能分担をどこまで明確にできるのか、業務が重複しないかといったことに関心をもちました」と、 拙著『非敗の思想と農ある世界』を読んで研修会の事前レポートを送ってくれたのは、ある県の全農に勤務する中堅職員。今年9月の話。

「開発機構の研究員は良いよね。組合員さんと直接会えて」の言葉のあとに、同じ内容のことを長野県経済連の職員に問われ、「えっ、そうなん?!」と言ってお茶を濁したのは30数年前の話。

今回は、「JA職員に同行を願い組合員と面談し、情報を共有する。その姿勢を貫きながら、場合によっては事後報告を前提に、直接面談を認められるくらいの信頼をJA職員と組合員から得ることを目指す」と言った趣旨の回答をしました。

さて今年10月に開催される第29回JA全国大会の組織協議案(案)(2021年5月、以下「協議案」と略)において、5本柱と位置づけられる「JAグループの取組実践方策」のひとつに「協同組合としての人づくり」があげられています。「人の結合体」であるJAグループにおいて、「人づくり」は永遠の課題です。問題は対象と内容です。

「協議案」によれば、主たる対象はJAの組合員と職員で、そのために必要な「サポート体制を整備」するのが連合会・中央会の役割。さらにJA職員については「協同組合運動者」と位置づけた教育強化方策も提示されています。ところが、中央会・連合会職員の位置づけと協同組合教育のあり方は言及されていません。

昔話が多くて恐縮ですが、10数年前、あるJAの部長に全国連と県連、それぞれの職員のイメージを聞いたら、予想通り「全国連の職員は雲の上の人」。続けて「県連の職員は雲の中の人」。その心は、「自分たちの都合で顔を出したり隠れたりします」との名回答。

悲しいかな、雲は大地から離れる一方。せめてJAだけでも大地、そして組合員から離れないでくれ、という勝手な願いが組織協議案にこめられているとすれば話は違います。

大地や組合員と距離を置かざるを得ない中央会・連合会職員こそ、農業協同組合論の学習は不可欠です。まずは関連する研修を、JA職員と机を並べて受講することをおすすめします。

それだけでも、協同のとりでは、堅固で難攻不落のものとなります。

(研究所長 小松泰信)


コラム・夏 協同のとりで  ~協同を支える所はどこだ~

伊藤野枝(いとうのえ、1895生。以下、野枝と呼ぶ)は、関東大震災から間もない1923年9月16日、事実婚関係にあったアナキスト・大杉栄とともに憲兵隊に虐殺されました。いわゆる甘粕事件。

村山由佳氏による、野枝の評伝小説「風よ あらしよ」(集英社、2020年)は吉川英治文学賞を受賞しました。

作家・高橋源一郎氏は、「サンデー毎日」(6月27日号)で同書を取り上げ、「読めば読むほど、いま必要な人材に思えてくる」と野枝を評価し、「クライマックスは550頁から554頁あたりです!」と、感嘆符まで付しています。

早速本棚の同書を確認すると、そこには鉛筆でたくさんの線が引かれています。ニンマリ。

当該カ所のあらましは、遺児からゲンニイと呼ばれ慕われていた同志・村木源次郎の回想として、終章で次のように語られています(639頁~640頁)。

―― しかし今になって鮮やかに思いだされるのは、野枝がかつて語った故郷の〈組合〉の話だ。(中略)規約もなければ役員もいない、あるのは困った時は助け合うという精神のみ。集まりの際の金勘定も、葬式も、道から外れた者を諭すのも、どれもこれも皆でする。 組合からつまはじきにされることへの恐怖心が抑止力となり、それ以前に基本的には各々が他へ迷惑をかけまいという良心に従って動くから、上からの命令や監督は必要ない。役場も警察もほとんど要らない。かつてはそうした村のあり方が監視のように思われて嫌だったという野枝は、(中略)故郷へ帰りたいかと訊かれて、こう答えたのだ。

〈私は――自分が戻るよりも、あの組合を再現したいのかもしれないわ。この国の、いたるところで〉

〈組合〉の二文字にひかれ、いつかどこかで紹介したいと思っていた時、あるJA組合長と支所運営委員会のあり方について意見を交わす機会を得ました。氏は、JA合併を経て、経営基盤が強くなる一方で、組織基盤が弱体化していることに危機意識を募らせ、次のようなビジョンを語ってくれました。

―― 組織基盤を強化するために、支所単位で自助を土台とした共助の組織づくりをする必要がある。支所運営委員会という任意組織を公式な組織に位置づけ、支所単位で組合員の声を集め、その願いや課題の実現を目指し、協同活動を展開する。それによって、JAとしての「大きな協同」による経済合理性の追求・経営基盤の強化と、支所単位の「小さな協同」による民主的運営・組織基盤強化を、バランスよく両立させていくことが可能になる、と。

支所は協同組合を「支える所」。そして、「あの組合を再現するためにも」、異議なし。

農業協同組合の支所(支店)に、協同のとりでを見た。

(研究所長 小松泰信)


コラム・春 協同のとりで  ~JAは「誰も置き去りにしない」~

西日本新聞(3月2日付)は、移住の町として有名な大分県豊後高田市の取り組みを紹介しています。
施策の転機となったのは、市が2002年度に「学びの21世紀塾」を開塾したこと。完全学校週5日制が始まることを契機に、子どもたちの土曜日の居場所づくりと、地方でも都市部以上の充実した学習機会と活動の場の提供をめざしたもので、市民には好評です。
その後、保育園保育料・幼稚園授業料、中学校までの給食費、高校生までの医療費、妊産婦の医療費、市営火葬場使用料の無料化。あるいは、一人親世帯の再婚応援金や不育・不妊治療費助成など、生活に寄り添った細やかな支援制度に取り組みます。
移住促進策も、宅地の無償提供や空き家リフォーム補助金40万円、孫ターン奨励金と称し、祖父母が住む同市への新規転入者への10万円給付など、バラエティに富んでいます。
記事の最後には、「暮らしやすさを実現するための施策が、移住先進地に結実しつつある」としたうえで、これは「自治体にとって、実は原点でもあるのだろう」と、記されています。

地方移住を支援するNPO法人「ふるさと回帰支援センター」が3月5日に発表した、2020年の都道府県別の移住希望地ランキングで、長野県は3位でした。4年連続の首位ではなかったものの、人気の移住希望県であることは間違いありません。
ただそれは、多分に「地の利」を得てのものであることを忘れるべきではありません。
「地の利」を得ていない、都会から遠く離れた地方都市が、限られた財政の中で取り組む「生活に寄り添った細やかな支援制度」はJAグループにとっても示唆に富んでいます。それは、その地域に、今住んでいる人々の生活をより良きものにすることでもあるからです。 移住者支援に目を奪われ、現居住者の生活向上策が疎かにされるならば、まさに本末転倒。魅力的な地域とは、今そこで生活している人々皆が、明るく生き生きと豊かな日常を送っている所です。
農業協同組合は、営農と生活に寄り添った事業と活動を、多年にわたって総合的・多面的・重層的に展開し、地域に根を張り、地域に無くてはならない存在となっています。もちろんこれからも。
SDGsの基本理念になぞらえれば、県内14JAをはじめとするJAグループには、その管内を「誰も置き去りにしない世界」にする、不断の努力が求められています。

さて、今回からこのコーナーに「協同のとりで」というタイトルをつけることになりました。「とりで(砦)」とは、「本城から離れて設けられた小さな城」のことです。
本県JAグループの前進と発展をめざし、「とりで」ならではのメッセージを発信します。

(研究所長 小松泰信)


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