研究レポート
中山間地における鳥獣害対策
2019年度の野生鳥獣による農作物被害額は158億円となっており、二ホンジカが53億円、イノシシが46億円で、この2種で約6割を占めています。 農作物被害額は年々減少傾向にありますが、野生鳥獣による被害は営農意欲を削ぎ、被害地域での農業を衰退させ、耕作放棄地・遊休農地の増加や離農の原因となることから、被害額以上に大きな影響を与えています。 また、耕作放棄地・遊休農地は、野生鳥獣の餌や隠れる場所を提供することになり、悪循環となっています。
特に、中山間地域は野生鳥獣の生息地である山や林と接した農地が多く、耕作放棄や離農が顕著です。中山間地域は総農家数、農地面積、農業産出額の約4割を占めており、日本の農業において重要な地域であることから、鳥獣被害対策によって中山間地域の農業の衰退に歯止めをかける必要があります。
鳥獣被害対策は、①個体群管理、②侵入防止対策、③生息環境管理が重要になります。鳥獣被害防止総合対策交付金では、捕獲活動経費の支援、捕獲体制強化、侵入防止柵の整備、野生鳥獣を寄せ付けない環境の整備、ジビエフル活用に向けた取組等に対して支援を行っています。 また、地方自治体においても野生鳥獣被害対策の支援が行われており、長野県では野生鳥獣総合管理対策事業で、野生鳥獣に対する被害防除対策や捕獲・管理に対して補助金交付が行われています。
野生鳥獣を地域振興の材料にする方法の一つとして、ジビエへの利用があります。狩猟された野生鳥獣は多くが埋設・焼却処理されていますが、これを食肉として活用することで所得向上や雇用創出へつながります。 2019年度のジビエ利用量は前年度と比べ6.4%増の2008tで、捕獲頭数全体に占めるジビエ利用等数割合は9%となっています。 ジビエとして利用されているのは主にシカとイノシシで、2019年度に捕獲されたシカの14%、イノシシの5%がジビエとして利用されました。こうした野生鳥獣のジビエ利用が地域の所得向上や雇用創出につながれば、野生鳥獣捕獲へのインセンティブとなり、捕獲頭数の増加とジビエ利用の増加という好循環を生むことも期待できます。
しかし、狩猟免許の新規取得者が減少していることから、狩猟者数の減少と高齢化が進んでおり、野生鳥獣捕獲の障壁となっています。環境省と農林水産省は2013年から2023年までの10年間で二ホンジカとイノシシの生息数を半減させる目標を掲げており、効率的かつ計画的な狩猟を進めるために、2015年から安全管理体制や狩猟の技能および知識を有する法人を認定する認定鳥獣捕獲等事業者制度が導入されています。 また、各都道府県で狩猟規制の緩和も進み、捕獲頭数は増加傾向にあります。一方、実際の捕獲頭数は計画した捕獲頭数を下回っていることから、生息数半減の目標達成のためには、狩猟者数の増加とより省力的かつ効率的な狩猟の実施が重要です。
(古谷真輝斗)
農業の働き方改革を考える
農業の担い手や経営者の減少とともに、一緒に農業を行う家族の人数も減ってきています。それを補うため、家族以外の人を雇って農業経営を行っており、農林業センサスによると被雇用者の延べ日数は2005年で275.3万日数だったのが、15年には316.5万日数に増加しています。 しかし、人を雇うことは容易ではなく、「農業で働く希望者がいない」といった声があがっています。一般的に農業は長時間労働、休日がないなどのイメージがあり、他業種との人材獲得競争に不利になっている可能性があります。
そのため、農業においても働きやすい職場づくりの整備が必要でありますが、どのような点を改善していけばいいのか、農家(雇う側)と労働者(雇われる側)の意識の差をアンケート調査より比較していきます(表)。 農家は配慮している項目に○をつける回答方法に対して、労働者(雇われる側)はそれぞれの項目について、配慮されているどうかを質問しています。
農家が配慮している割合が高い項目は、「休日の確保」、「労働保険や社会保険の充実」、「農繁忙期の均等化」、「早朝・深夜労働の削減」、「有給休暇の付与」でした。一方の労働者では、配慮されていると思う割合から、配慮されていないと思う割合を引いた両者の差をみると、「休日の確保」と「休憩所の充実」は配慮されている割合が高くプラスの値になっています。
しかし、「有給休暇の付与」、「農繁忙期の均等化」、「労働保険や社会保険の充実」、「人材育成の体系化」はマイナスの値が大きく、労働者の不満となっています。とくに、有給や農繁期の均質化、保険の充実は農家が気をつけていると考えているにもかかわらず、労働者からの評価が低いため、今後の職場づくりの課題と言えます。
*農家の回答者数は414人、労働者の回答者数は93人
(主任研究員 坂知樹)
『マーケットイン型産地づくりとJA』の出版
本書は日本協同組合連携機構(JCA)が設置した研究会の成果を取りまとめたものです。当機構も執筆の一部を担当したため、概要を紹介します。
本書の内容は、マーケットインに基づく産地づくりと農協共販のあり方を、JA営農販売事業の革新と生産部会の細分化再編に焦点を当てて論じたものです。
マーケットインの考え方は、産地づくりやJAグループの営農販売事業においても、決して目新しいものではありません。 それでも本書がマーケットインに着目するのは、JA販売事業の「顧客」は誰かということをいま一度考えねばならないからです。 これまで卸売業者をおもな顧客として認識してきましたが、近年では加工業者や外食・中食業者、スーパーマーケットなどの実需者が存在感を高めるとともに、ニーズが多様化しています。
産地サイドにおいても生産構造が変化しています。小規模経営体が多数を占める一方で、一部の大規模経営体が、産地の耕作面積や販売額のシェアを拡大するなど階層分化が起こっています。 規模拡大を志向する経営体は、雇用の拡大や法人化を選択する経営体も増えており、生産過程においても食の安全・安心や環境保全への配慮、卓越した品質や外観の追求など独自に取り組む経営体も少なくありません。 このように異質性が高まるのに伴い、個々の経営体の行動様式やJA営農販売事業へのニーズも多様化しています。
こうした内外における環境変化を受け、全国の農協共販組織では事業や組織の見直しが進められています。その中でも、JA(または連合会)が営業機能を強化し実需者へ直接的に働きかけを行うとともに、その実需者との取引への参加を望む経営体を小グループ化して、両者を結びつけることで契約的な取引を拡大させている農協共販組織が現れています。 このように、実需者に対し能動的に働きかけを行う農協共販組織は、実需者側からビジネスパートナーとして尊重され、マーケットにおいてその地位を高めていく可能性が拓かれるのではないか。 また、農家の多様化が進むなかでも、志やニーズを同じくする経営体同士での組織化に取り組む農協共販組織では、個々の経営体が生き生きと農協共販へ参加するとともに、その主体性がJAへの参画や連帯が引き出されるのではないか。
本書では、こうした仮説に基づき、前述のような先駆的な実践の事例を丁寧に描写するとともに、これらの取り組みに関する理論的な検討と、新たに取り組もうとする農協共販組織に対する提案・助言になることを目的としてます。興味のある方はぜひご一読ください。
(主任研究員 坂知樹)
東南アジア各国に農産物加工支援
JA全中が農水省から受託した、東南アジア諸国連合(ASEAN)の農業の能力開発を支援する事業(2018~2020)の3カ年の総括報告会が8月にウェブで開催された。
述べ11カ国に専門家を派遣し、農村の経済格差の解消に向けて技術や販売力、農村女性の地位向上、農業生産工程管理(GAP)や共済、農産物加工などの農業強化に向けた研修を開催。
当機構からは、2018年ラオス「野菜などの農産物加工について」、2019年タイ ランパーン州「果物の加工技術および管理について」現地情勢を含め指導内容を報告した。
なお、2020年は、前年訪問したタイ ランパーン州から州職員、生産組合を招聘しての国内研修、現地に出向いての現地研修がコロナ禍により中止となった。
JAグループのノウハウも盛り込み、他国の農協・農家とのつながりを深めた。
(統括研究員 大熊桂樹)
スマート農業実証 ~人手不足解消へ~
新型コロナウイルス感染拡大に伴う外国人技能実習生の受入制限等によって急速に深刻化する人手不足の影響を受ける品目・地域を対象に、強い生産基盤を構築するため、農業高校等と連携し、スマート農業技術の実証を行う「労働力不足の解消に向けたスマート農業実証」((国研)農業・食品産業技術総合研究機構)が全国24グループで採択されました。
長野県では、当機構が代表機関を務める[中山間地域におけるキャベツ収穫機械化体系実証コンソシアム]*が採択され、軽井沢地域を実証地とし、キャベツ栽培において最も多くの時間と労力を要する収穫作業を機械化し、労働生産性を向上させることを目的としています。
また、中山間地域での実用性を検証するため、慣行の収穫出荷体系に近い形で運用実証を行い、県内大型生産者や法人に波及させ、新しい農業手法の推進を図ります。
実証グループには、長野県農業大学校、佐久平総合技術高校にも参画いただき、現に農業生産について学ぶ学生等に実習の機会を提供いたします。
*中山間地域におけるキャベツ収穫機械化体系実証コンソシアム構成団体
当機構、JA全農長野、㈱関東甲信クボタ、㈱クボタ、クボタアグリサービス㈱、長野県農政部、長野県野菜花き試験場、長野県農業試験場、㈱グリーンフィールド
(統括研究員 大熊桂樹)
「棚田地域振興法の設立」
棚田を保全し、棚田地域の振興を目的として、令和元年8月から施行されました。
その理念の中には、棚田地域住民だけでなく、棚田は国民の財産として、みんなで守っていこうという、メッセージが含まれています。
また、法律で設定された「指定棚田地域」に認定されると、棚田地域コンシェルジュから情報提供・助言等が受けられ、必要に応じ優先採択措置、優遇措置の追加や採択要件の緩和等の拡充措置を講じるなどのメリットがあります。
長野県にも多数の棚田があり、そのうちの一つが千曲市にある「姨捨の棚田」です。総面積は約75ha、1,800枚の棚田を有し、重要文化的景観になっています。棚田保全活動としてオーナー制度を行っており、平成30年度では合計88組が会員となっています。
また、6つの耕作団体が棚田の保存、食育、都市住民との交流活動など積極的な活動をしています。一方で、高齢化が進み、傾斜地で耕作が大変なため、耕作放棄地も発生しています。
そこで当機構では千曲市からの委託を受け、棚田地権者約150名に対してアンケート調査を実施し、農業振興計画に反映させていきます。長野県は、農水省の日本の棚田100選の中に16地区も認定されているため、当機構ではこうした地域・農業振興に向けた調査・研究を進めてまいります。
(研究員 坂知樹)
生産物 生かし切る知恵を
農業の可能性を広げる試みの一つとして6次産業化の動きがある。
農業(1次産業)だけでなく、加工などの2次産業や、サービスや販売などの3次産業まで“1×2×3=6”と一体化して付加価値を生み出そうとういう考えだ。自分たちの生産物に付加価値を付けるという意味では、直売所や農家レストラン、観光農園、体験農場も立派な6次化。
長野県の場合、果実を中心にジュースやジャムなどに加工して売る動きは以前からあり、市田柿などは良い例だ。
必ずしも加工施設を持つ必要はない。どこまで自分たちで手をかけ、付加価値を付けられるかが知恵の出しどころだ。
かつて多くのJAに地元の農産物を利用した漬物工場があった。しかし、原料が集まらなくなり、今まではほとんどが閉鎖されてしまっている。みそやしょうゆも同じ。現在、信州みそといいながら、本当に信州の米と大豆から造られている製品がどれくらいあるのか。逆に、ワインでは近年、地元のブドウを使った小さな醸造所が各地に生まれている。大手メーカーが独自に農園を持つ動きも目立つ。
売れ残りや食べ残し、期限切れ食品など食品ロス問題がクローズアップされているが、それ以前に廃棄される規格外品がたくさん出ている。それらを処分するのにお金がかかっており、逆に新たな製品を生み出してお金に換える方法を考えている。
ジュースやワインの搾りかすからオイルを抽出して化粧品を作り出したり、もう一度蒸留してグラッパ(ホワイトブランデー)などに利用したりする試みを支援している。
果物でも野菜でも収穫時期は限られており、年間を通して収益につながるものがあれば心強い。ただ、加工するにはコストがかかり、売れなければ在庫負担も重い。幸い、農産加工品でも国産原料に対する消費者の志向は強い。地元の素材を売り出すには、いいタイミングだ。(信濃毎日新聞 2019年(令和元年)8月1日 18面掲載)
(統括研究員 大熊桂樹)
地域資源を活用したご当地化粧品開発
当機構では地域資源を活用して、農業者と異業種の事業者間の連携による、新商品開発と事業化可能性調査を実施してきました。
果実加工残渣からの種子、果皮を主原料に、ハチミツ生産量日本一の本県養蜂業の副産物である蜜蝋を加えた、ご当地化粧品(保湿クリーム等)を開発し、一部本年からの試験販売が開始されます。
モニタリングでは、いずれのクリームにおいても保湿力の点で高い評価を頂おり、4種に共通する性質であることが確認できました。これは、蜜蝋と植物油というシンプルな処方である事、不飽和脂肪酸の乾性油としての性質が保湿力とさっぱり間を両立させているに加えて、蜜蝋の持つ高い保湿力によるものであると考えられます。
4月には、天然サクラオイルを抽出した保湿クリームの販売も開始されます。未利用農産物資源の有効利用による、地域ぐるみの6次産業化の取組を拡大しましょう。
(統括研究員 大熊桂樹)
きのこの生産・消費量の動向と、新たな販売方法の展開に向けて
近年のきのこ価格は全国的に安値傾向にあり、農家の経営に影響を与えています。そこで、きのこの需給関係がどのような状況にあるのか、農林水産省『特用林産物生産統計調査』や、総務省『家計調査』をもとに調べてみました(表参照)。
まず生産量についてですが、2015年は36万3千トンで、1985年と比べると2.8倍に増えています。つぎに家計消費量をみると、15年は33万2千トンで、85年比で3.2倍となっており、家計消費の増加率>生産量の増加率となっています。 それにもかかわらず、価格が低下しているということは、需給バランスが原因ではなく、生産方法の変化(効率化)や流通・販売面(特定の実需と結びついた安値競争)などの影響が大きいと推察されます。
また、別の角度からきのこの生産量と家計消費量の関係をみていきます。両者の差を加工・業務用需要量としてその割合を推計すると、85年には19.1%で、15年には8.3%になっています(輸出入や流通上のロスを除く)。 他の品目の加工・業務用割合は、野菜で約56%、果樹は約45%となっているため、きのこは低い割合と言えます。
以上から、従来の家計消費向け主体の生産販売では価格を支えきれなくなっており、需要の拡大が見込まれる業務・加工用と組み合わせることで価格を安定させられる可能性があります。そこで当機構では、本年度、JAと協力して食品業者などにアンケート調査を行い、①需要先の発見、②規格・品質における加工適性の検討、③一次加工、流通形態の検討を行っていきます。
(研究員 坂知樹)
ワインの製造過程でできるぶどう由来の新食材 「ワインパミス」の利用利用
長野県は日本を代表する良質なワイン生産県として、醸造に用いるぶどう生産量は、全国1位(6,363t:平成27年特産果樹生産動態等調査)で、その土地ならではの個性あるワインを醸造しています。一方、醸造廃棄物の循環利用も環境に配慮した取り組みの推進が求められています。
当機構ではその醸造廃棄物の利用について研究開発を行ってきましたので、その利用法についていくつか紹介します。
ワインの搾りかすのことをパミス(pomace)といいます。主に水分、ぶどう果皮、種、梗からなり、その多くが肥料、または産業廃棄物として処分されています。しかしこのパミスには、ポリフェノール類をはじめ、さまざまな機能性成分が含まれています。
① 酒の原料
ぶどうの搾りかすをさらに発酵して作られたアルコールを蒸留して作られた酒をイタリアでグラッパと呼びます。フランスのマール、バルカン半島のラキアなどもこの仲間です。蒸留酒ため、アルコール度数は高めです。
② 家畜用飼料
羊、牛、豚など、家畜の飼料に混ぜて使用されることもあります。豚の飼料に混ぜたところ、排泄物由来の悪臭抑制も有害菌数抑制などの効果が期待できるとの報告もあります。
③ 食品に再加工
パミスからペースト、ジャムなどの加工品を作るなどの工夫もされています。さらに種からグレープシードオイルを絞ったり、ブドウ果皮から食用色素も作られています。
④ 機能性食品の原料
パミスに含まれるオレアノール酸には抗メタボ効果、抗蝕効果があることが明らかにされています。パミスエキスは機能性食品素材として製品化されています。
⑤ その他
パミスに含まれているプロアントシア二ジンに注目した化粧品の開発や、ぶどう果皮色素を使った染料の開発も行われています。
(統括研究員 大熊桂樹)
モンドラゴン協同組合企業への視察研修
家の光海外協同組合視察研修に参加したので、モンドラゴン協同組合企業での研修内容をご紹介します。
モンドラゴン協同組合は、労働者協同組合の集合体の名称で、101の協同組合から構成されています。 その内訳は、工業、信用事業、小売事業、農業、教育分野、研究・開発などを行う協同組合と、国外には128の子会社があり、グループ全体で約7万5千人の従業員がいます。 組合の使命を端的に言うと「労働者の地位向上」、「仕事の創出」、「教育の重視」です。その取り組みをみると
① それぞれの協同組合で働く従業員は組合員であり、平等に1人1票の議決権を持つ組合の所有者である。
② 101の協同組合の間で従業員の再配置・調整を行い、雇用を維持し続けている。また、利益についても小グループ内で一定割合を再配分し、余剰金は従業員に分配している。
③ モンドラゴン大学を運営し、高等教育の実施、職人の養成、協同組合教育を実施している。
などがあげられます。
こうした自主・自立・民主的運営、教育活動のほか、組合間の協同や、地域社会への貢献も積極的に行っています。これらの取り組みはICAの協同組合原則に記されているものでもあり、JAグループの役割を改めて考えさせられる良いきっかけとなりました。
(研究員 坂知樹)
特許申請「天然色素抽出液の製造方法」
本発明は天然色素抽出液の製造方法に関し、果実の果皮を利用して天然色素抽出液を製造する方法で、信州大学との共同で特許出願をいたしました。
りんご、ぶどう、柿などの果実の果皮には、天然の色素が含まれているから、この色素を利用して加工食品を着色するといったことが行われています。
天然色素抽出液の製造方法は、果実の果皮に酵素を添加し、酵素反応を利用することでポリフェノールなどの高い物質を効率的かつ容易に色素を抽出することができます。
天然色素抽出液は、食品素材としてそのまま利用することができ、ジャム等の着色に利用する他、ヨーグルト等の他の食品に添えて使用するといった種々用途に利用することができます。(特願2016-57797)
(統括研究員 大熊桂樹)
信州エクスターンシップ受け入れの効果
8月28日から9月3日にかけて信州エクスターンシップ(長野県主催)が開催されました。 信州エクスターンシップとは首都圏の大学生を対象に、長野県内の企業で職業体験を行うとともに、就職や社会人になることへの意識を高めることを目的とした事業です。
体験先の1つである農業コースでは、JA長野中央会が事務局となり、JAグリーン長野、JAながの、農協観光を中心に学生20名を受け入ました。体験内容は、農産物の収穫・選別、Aコープ・直売所での業務体験、市場・研究所見学などです。
そして当機構は、農業コースに参加した学生に対してアンケート調査を行ったので、結果の一部を紹介します。
研修を通じた農業のイメージの変化を「良くなった」~「悪くなった」の5段階で評価してもらうと、「良くなった」との回答者が14名、「少し良くなった」は6名でした。
同様に、JAのイメージの変化では、「良くなった」が16名、「少し良くなった」は4名となり、参加者全員の農業やJAのイメージが向上し、明確な効果が現れました。
このように農業やJAのイメージが変わった理由としては、「JAに対して大雑把なイメージしかなかったが、研修を通じてJAの取り組みを知ることで安心感が生まれ、イメージがよくなった」、「農業は大変そうだが、地域とのつながりが強く、やりがいのある仕事だと思った」などです。
また、研修を通じて就職先としてJAなど農業に関わる仕事に就いたり、農業をしたいと思いますか、という質問に対しては、「そう思った」と「少しそう思った」の合計回答者数が16名でした(右図)。
したがって、学生がJAや農業に関わる仕事へ興味を持ち、就職に結びつけるためにインターンシップは有効な活動であると考えられます。
(研究員 坂知樹)
「発酵ジャムとまと」の商品化
植物性乳酸菌を用いた「発酵ジャムとまと」は、農林水産省「平成26年度緑と水の環境プロジェクト事業」において信州大学工学部(長野市)、デイリーフーズ㈱長野工場(坂城町)と当機構3者により開発した商品です。
原料のトマトは、長野県野菜花き試験場(塩尻市)が2009年に開発した加工用トマト「リコボール」を使用しました。「リコボール」は抗酸化作用や血糖値を下げる効果があるリコペンが、通常の加工用トマトの1.5倍から2倍程度多く含まれています。発酵ジャムは、トマトを加熱殺菌後に冷やして乳酸菌とリンゴ酸を加え、温度を一定に保った状態で3日間ほど発酵させます。その後、砂糖を加えて煮詰めます。トマトの酸味と甘みを残しながら、素材が持つ以上のまろやか風味は、乳酸菌発酵による風味がもたらすものです。 食パンと共に召し上がっていただくのはもちろん、チーズや天然酵母パンなどの発酵食品との相性も良く、奥行きのある味わいは、ジュースやゼリーに、またサラダドレッシング、ガレットやピザ、パスタなどのソース等、料理やスイーツにも適しています。
「高リコペン」と「乳酸菌発酵」というシーズを組み合わせた6次産業化、新商品と新事業の創出、それらを通じて生産振興を図る方策が明らかにされた事業となりました。
(統括研究員 大熊桂樹)